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情報主義社会の構築方法と、情報を用いた「報徳仕法」構想に関する素案 2025 #2

長谷川 雄治
読了見込 15
国際情勢も国政も先が読めない今日だからこそ、インターネットの片隅で次の社会構想を好き勝手に放言しようという取り組み。情報や報徳仕法の再解釈や、詰めの甘い思想を素人が垂れ流していくシリーズ第二弾。

第一章 情報と情報主義

第一節 情報の再定義

マルクスが『資本論』において、商品という要素から価値や労働、資本を分析・再定義したように、我々も、まずは核となる「情報」についての再定義から出発したい。

現代において「情報」という言葉ほど、多義的な言葉もないだろう。
情報処理学会の寄稿によれば、

『原語はフランス語のrenseignementで,敵の「情状の報知」の意味で使われた』
—「情報という言葉を尋ねて(1)」より引用
https://cir.nii.ac.jp/crid/1050282812874612096

とされており、「情報」は本来、状況把握や敵情視察のような意味合いを持つ言葉だったという。

Wikipediaでもその多様性が示されているとおり、インフォメーション(information)やインテリジェンス(intelligence)としての意味だけでなく、シグナル、インジケーターといった判断材料、さらには論理や数理、計算機におけるビット・バイトといった「データ」、コンテンツ産業やメディア事業といった表現・媒体の文脈まで、「情報」と一括りにできてしまう。

あえて既存の表現から、最も近しいニュアンスをピックアップするなら、「物語(ナラティブ)」が適切に思える。主に検索エンジンの界隈で「コンテンツ」と称されるものや、画像・映像なども含めた「ドキュメント」も、そう遠くはない。

ここで言う「物語」とは、単なるデータではなく、発信者や語り手の視点が交わり、文脈や伝えたい意思が加わった一連のまとまりを指す。まだ明確に言語化・表現されていない個人の経験や感想、新たな発見といったものも、広義の「物語(ナラティブ)」として包摂したいと考えている。

ただし、同じ「物語」であっても「ストーリー(ライン)」や「シナリオ」とは同義ではない。
それらはあくまでも作劇における構造や設計図であり、「書かれていること」を重視するあまり、行間、すなわち「語られていないこと」への想像や広がり、空間性を欠いている。

展開や構造の妙味で読者を惹きつけたとしても、二度目にはその魅力は半減し、「書かれていること」だけが評価の対象となってしまえば、本来伝えたかったものの半分以上が、こぼれ落ちてしまう。独自性のアピールや表現の技巧ばかりに囚われた、狭雑で小競り合いのような世界に堕してしまえば、技芸や知識を競うみっともない存在にもなりかねない。

ここで重視したいのは、「物が語る」ということ。そしてそれを受け手が主体的に汲み取り、想像力や感受性を発揮して、解釈するということだ。
n倍速再生で「どんな物語だったか」をざっくり把握できたとしても、そこには空気感や匂い、手触りといった、大事な「何か」は失われてしまう。

例えばクラシック音楽の演奏や古典落語のように、「知っている曲」や「知っている話」であっても、誰が指揮をしてどのように演奏されるか、誰が語り部となるのか、どんな場所でそれを受け取るかによって、体験も感動もまったくの別物となる。
その瞬間、その場面で感じ取った情動は、二度と再現されることのない一回性を帯びている。

そうした儚さと一期一会性を備えた「物語(ナラティブ)」こそ、本稿で語る「情報」の定義としたい。

なお、「物語(ナラティブ)」や「コンテンツ」に付きまとう、表現や技芸の巧拙については一旦評価の対象から除外し、誤解を生みにくく、できればもう少し適切な新語として言い換えることができればとは思うが、明治や大正にかけて活躍した文化人や文豪のような漢籍の素養や、センスは私にはない。

恐らく、霊妙や霊験、霊長といった意味合いから、「霊智」(れいち)辺りに着地するだろうし、それなりに適切な表現にも思えるが、何者でもない人間が急に「霊」を用いた造語を提案するのは、流石に気が引ける。

響きが同じであるというところから「零」、「智」を人が作ったものの総称や精神的なものとして「文」を組み合わせることも考えたが、文化をもたらした「火」にちなみ、燧石(ひうちいし)の化学成分である珪素(=シリコン)の「珪」をもらって、「零珪」(れいけい)という造語を考えてみたものの、語呂や座りが良くない印象があり、まだまだ推敲が甘いという判断から、一般の方にも馴染みが深い「情報」をあえて使うこととした。

蛇足すぎることを承知で補足するなら、雨冠との組み合わせによって「火と水」を内包しつつ、情報産業に欠かせないシリコン、数理や2進数の領域で象徴的な「ゼロ」、さらにはそれ以上小さくできない最小単位としての意味や、宝石のような輝きを連想させる印象まで込められる「零珪」という造語は、それなりに悪くない着想ではある。

ただ、ラノベ的なネーミングやオタク文化にありがちな悪癖——いわゆる“厨二病”的なイタさ——も完全には拭い切れず、受け手に不必要な抵抗感を生む恐れもある。

「情報」や「物語」という語が本来的に抱える誤解の余地を引き受けた上で、本稿ではあえて「情報」という言葉で貫き通す所存である。

第二節 情報主義

「情報」の定義を終えたので、次は「情報主義」について考えたい。
この語は、「情報化社会」や「情報革命」、「情報資本主義」といった既存のフレーズや、ポスト資本主義、脱工業化社会といった文脈とも接点がありそうだが、ここで扱う「情報主義」はそれらとは少し異なる。私が考える「情報主義」は至ってシンプルだ。

それは、「資本主義」が商品の価値や交換を通じて資本の蓄積・拡大・再生産を促したように、「情報」――すなわち第一節で定義した「物語(ナラティブ)」――をそのまま流通財や通貨として扱い、情報資産の拡大や再生産を図ろうとする発想である。

ここでの最重要ポイントは、情報を「そのまま」流通財として扱うという姿勢にある。
すなわち、情報と情報とが直接交換され、情報が新たな情報を生む――情報同士による自己増殖構造を想定している。

しかし、現在のコンテンツ産業やメディア事業は、情報を貨幣経済や市場というフィルターを通過させて商品化する仕組みに組み込まれている。
「物語(ナラティブ)」が持つ商業的な価値や換金性といった評価軸に依存している限り、「情報主義」は資本主義の重力圏から抜け出すことはできない。

せっかくのポスト資本主義的な可能性にも関わらず、「情報化社会」や「情報資本主義」、さらには「脱工業化社会」といった言葉が指し示すのは、結局のところ、既存の貨幣経済や市場の延長線に過ぎない。

もちろん、信用取引や市場、貨幣そのものは『資本論』以前から存在し、自他や相場という構造を通じて機能してきたものでもある。完全に切断することは非現実的であり、情報主義が自立・自走するためにも、一定の換金性や価値算定の仕組みは依然として必要となる。非常に重要な部分ではあるが、この点については後述する。

新たな流通財となる「情報」の定義において、以下のように述べた。

  • 表現や技芸の巧拙については一旦評価の対象から除外する
  • 個人の経験や感想、新たな発見といったものも、(中略)包摂したい

一つ目のポイントは、「情報」そのものの価値にフォーカスすることで、流通財としての普遍性と公平性を高める点にある。確かに、「誰が」という発信者の権威性や、「どう表現されたか」という技芸の精度は、情報の価値に一定の影響を与える。それらは加点要素として扱い、クリエイターとは言い難い素人の持つ「情報」であっても、通貨として機能しうるという余地は、明示的に担保したい。

二つ目のポイントは、情報の流通可能性を最大化するための裾野の拡張を意図している。現在の検索エンジンやSNSでは、いわゆる「コンテンツ」として一定の品質を求める傾向にあるが、口コミやレビュー、UGC(ユーザー生成コンテンツ)といった断片的・素朴な情報にも、軽視できない経済的・社会的影響力がある。気合の入った「コンテンツ」でなければ「通貨」たりえないという水準では、情報が自律的に増殖する余地は著しく狭まってしまう。本稿が想定する「情報」は、誰もが参加可能な流通単位であり、多孔性――小さく曖昧な「穴」――を意図的に確保しておきたい。

「情報」を流通財と見なす場合、その評価基準や補助線として参考になるのは、例えばE-E-A-T(Experience, Expertise, Authoritativeness, Trustworthiness)なども含めたGoogleの評価アルゴリズムや、ブロックチェーン技術、そしてCBDC(中央銀行デジタル通貨)である。後者二つは「履歴付きの価値伝達手段」という点で同根だが、本稿では「情報の連なり方」に注目する観点から、あえて別のキーワードとして扱いたい。

情報主義やその社会像については、ここで述べた以外にも検討すべき論点は多々あるが、一旦ここで区切りをつけ、個別のキーワードを手がかりに、より具体的な輪郭を見ていきたい。

思想・構想

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長谷川 雄治(仮面ライター)

Yuji Hasegawa (KamenWriter)

昭和63年生まれ。大阪電気通信大学 総合情報学部 デジタルゲーム学科卒。
2011年からWeb制作に従事。コーディングやWordPressのカスタマイズ等を主に経験を積む。2013年、仮面ライターとして独立開業。マーケティングや企画、上流も下流も幅広く対応。
コーディングとコンテンツ制作の同時提供を考えるヘンな人。

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